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千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)29号 判決 1998年3月25日

千葉県船橋市前原西八丁目二番二号

原告

有限会社アオキドラツク

右代表者代表取締役

青木一郎

右訴訟代理人弁護士

佐藤義行

後藤正幸

千葉県船橋市本町二丁目二十七番二十五号

被告

船橋税務署長 飯田博

右指定代理人

戸谷博子

堀久司

古川敞

富永鐘治

光吉正博

須川光芳

林裕之

主文

一  原告の請求のうち次の部分の取消の訴えをいずれも却下する。

1  原告の昭和六二年六月二四日から昭和六三年五月三一日までの事業年度分の法人税の更正処分及び右法人税更正処分に係る重加算税の賦課決定処分のうち、所得金額八八四万四四一七円、納付すべき法人税額二七五万四四〇〇円、重加算税額九一万を超える部分

2  原告の昭和六三年六月一日から平成元年五月三一日までの事業年度分の法人税の更正処分及び右法人税更正処分に係る重加算税の賦課決定処分のうち、所得金額二〇一八万六四三六円、納付すべき法人税額七五一万八一〇〇円、重加算税額二六二万八五〇〇円を超える部分

3  昭和六三年一月分~同年六月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分のうち、源泉所得税額二八一万五三四四円、不納付加算税額二八万一〇〇〇円を超える部分

4  平成元年一月分~同年六月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分のうち、源泉所得税額一四四万五六二六円、不納付加算税額一四万四〇〇〇円を超える部分

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成元年十二月二六日付けでした次の各処分をいずれも取り消す。

一  原告の昭和六二年六月二四日から昭和六三年五月三一日までの事業年度(以下「第一事業年度」という。)分の法人税の更正処分及び法人税更正処分に係る重加算税の賦課決定処分のうち、所得金額を一四九万八九五七円として計算した額を超える部分

二  原告の昭和六三年六月一日から平成元年五月三一日までの事業年度(以下「第二事業年度」という。)分の法人税更正処分及び右法人税更正処分に係る重加算税の賦課決定のうち、所得金額を一七三万三五〇〇円として計算した額を超える部分

三  源泉徴収所得税の納税告知処分及び右納税告知処分に係る不納付加算税の賦課決定処分のうち、所得税額を六七万〇二〇〇円として計算した額を超える部分

第二事案の概要

一  前提となる事実(1~3は争いがなく、4は乙三及び原告代表者によって認める。)

1  原告は、医薬品及び化粧品の販売等を目的として昭和六二年六月二四日に設立された有限会社であり、第一事業年度及び第二事業年度(以下合わせて「本件各事業年度」という。)当時青色申告の承認を受けていた。

2  原告が被告に対してした法人税の確定申告、被告がした更正及び重加算税賦課決定並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は、第一事業年度分が別表一のとおりであり、第二事業年度分が別表二のとおりであるほか、納税告知処分及び不納付加算税賦課決定並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表三1~4のとおりである。

3  処分の概要

本件各係争処分(ただし、平成四年九月二八日付けの裁決により一部取り消された後のものをいい、以下「本件各処分」という。)が基礎とした事実関係は、次のとおりである。

(一) 第一事業年度分の法人税の更正処分について

原告の第一事業年度における所得金額は、次のとおり八八四万四四一七円である(△は減算金額を表す。)

(1) 申告所得 五〇万〇二五七円

原告が、昭和六三年七月三〇日に被告に提出した第一事業年度分の法人税の確定申告書に記載した所得金額

(2) 売上除外 九九九万四四八〇円

原告が第一事業年度に売り上げた医薬品の代金のうち、右確定申告の基礎に算入されておらず、同年度の益金に算入されるものと被告が認定した額

(3) 仕入認容 △一六五万〇三二〇円

原告の医薬品の仕入代金のうち、右確定申告の基礎に算入されておらず、第一事業年度の損金に算入されるものと被告が認定した額

(4) 所得金額 八八四万四四一七円

(1)~(3)に基づいて算出した額

(二) 第二事業年度の法人税の更正処分について

原告の第二事業年度における法人税の所得金額は、次のとおり二〇一八万六四三六円である。(△は減算金額を表す。)

(1) 申告欠損 △二六五万七四一六円

原告が、平成元年七月三一日に被告に提出した第二事業年度の法人税の確定申告書に記載した欠損金額

(2) 売上除外 二七五万八〇五二円

原告が第二事業年度に売り上げた医薬品の代金のうち、右確定申告の基礎に算入されておらず、同年度の益金に算入されるものと被告が認定した額

(3) 仕入認容 △四〇〇万八〇〇〇円

原告の医薬品の仕入代金のうち、右確定申告の基礎に導入されておらず、第二事業年度損金に算入されるもと被告が認定した額

(4) 事業税認定損 △七一万六二〇〇円

被告の更正に係る原告の第一事業年度における増加所得金額(ただし、裁決による一部取消後のもの)に対する事業税として、第二事業年度の損金に算入されるべきものと被告が認定した額

(5) 所得金額 二〇一八万六四三六円

(1)~(4)に基づいて算出した額

(三) 重加算税賦課決定処分について

右(一)及び(二)とおり原告が売上の一部を益金に算入しなかった行為は、原告が法人税の期限内申告書の提出に際して、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、これに基づき納税申告書を提出したものに該当する。

(四) 納税告知処分について

右(一)及び(二)における売上除外額の合計から仕入認容額を控除した残額は、原告から原告代表者に対して支給された役員賞与というべきところ、これに係る源泉徴収所得税(以下「源泉所得税」という。)はその法定納期限までに納付されなかった。原告は、所得税法二一六条所定の源泉徴収に係る所得税の納期の特例の適用を受けており、本件各事業年度における各納期ごとの認定賞与支給額及び源泉所得税の内訳は別表三1~4の各「納税告知・賦課決定」の項(平成四年九月二八日付けの裁決により一部取り消されたものについては、「裁決」の項)の「賞与と認定した額」欄及び「源泉所得税額」欄に記載のとおりである。

(五) 不納付加算税賦課決定処分について

原告は(四)の源泉所得税を各法定納期限までに納付しなかった。

4  原告の営業内容

本件各事業年度当時、原告の営む取引の具体的内容としては、外商(医薬品を仕入れて医療機関や開業医に納入する。)、調剤(保険医が作成した処方箋に基づいて保健薬の調剤を行う。)、店頭販売(仕入れた売薬を店頭で一般消費者に向けて販売する。)及びブローカー取引(医薬品を仕入れて現金問屋に転売する。)があった。原告の店舗は一か所で、原告代表者のほかに従業員として同人の妻、薬剤師二名及び店頭販売の仕入販売を任せ、妻には経理の一部を分担させ、自らは、経理のほか外商とブローカー取引を担当し、ブローカー取引の一切を一人で行っていた。

原告は、外商・保険調剤・店頭販売のための医薬品は、現金問屋(現金取引を中心に行い、仕入価格と卸売価格が通常価格と比較して低廉であることを特徴とする卸売業者をいう。原告の主な取引先としては、マルサン薬品株式会社(以下、「マルサン薬品」という。)、アート薬品株式会社、有限会社登商事等がある。)、医薬品メーカー又はその代理店から仕入れ、ブローカー取引の仕入医薬品は、原告が入手したい医薬品と抱き合わせで買い取る、医療機関から引き取る(医薬品の有効期間が切迫した場合、現金化の必要がある場合、医薬分業のために不要となった場合等がある。)、医薬品卸売業者の営業員の販売成績計上に協力する形で医療機関の伝票を使って引き取る等の方法で購入し、その一部を外商の在庫として残すほか、大部分を現金問屋に転売していた。

二  争点

原告は、本件各事業年度の法人税の納税申告において原告が申告の基礎に算入しなかったブローカー取引に係る売上金(以下「本件売上金」という。)の存在を被告が認定していた各更正処分及びこれに係る重加算税賦課決定処分(以下「本件各更正処分等」という。)について、各期の損金に算入されるべき未計上の仕入の存在を主張するほか、第一事業年度について被告が認定した売上のうち昭和六三年四月二二日付けで入金された二四万六〇〇〇円は売上げでない旨主張し、また、被告が本件売上金の一部は原告代表者に対して賞与として支給されたものと認めて行った各納税告知処分及びこれに係る不納付加算税賦課決定処分(以下「本件各納税告知処分等」という。)について、右被告の認定を争う(なお、原告は請求の趣旨において本件各納税告知処分等のうち一部分についてのみ取消しを求めているが、いかなる部分について給与若しくは賞与であることを争わないのかは明らかでない。)ほか、処分の方式の違憲違法を主張している。

三  争点についての当事者の主張

1  争点1(算入されるべき仕入れの有無)

(一) 原告の主張

ブローカー取引の仕入れと売上げは、いずれも全額本件各事業年度の法人税の確定申告の基礎に算入されていなかったものであるにもかかわらず、被告は、本件各更正処分等においてその売上げを益金に算入しながら仕入れの大部分を売上原価として損金に算入しておらず、この点において本件各更正処分は違法である。

特に、右売上原価は、被告において確定額で捕捉できない以上、売上額と売上原価率により算定するのが合理的であり、かつ、マルサン薬品等の現金問屋への販売における売上原価率が九五~九七%であるから、本件では、具体額の判明している第二事業年度中のマルサン薬品への売上額一一六〇万八八〇〇円の九五%の一一〇二万八三六〇円は少なくとも第二事業年度における損金に算入されるべきである。また、被告の認定額に基づいて原告のブローカー取引の利益率を算出すると、不合理に高い値となる点からみても本件各更正処分等は違法である。

(二) 被告の主張

被告は、原告の公表帳簿に記載のない仕入れの有無を検討するため、原告の隠し口座(後記の本件各口座)の出金の内容について原告の取引先に対する反面調査又は銀行口座の出入金額に関する直接資料の調査を行い、これによって実績で把握した仕入額を損金に算入しており、被告が認容した仕入額以上の仕入れは存在しない。

右のとおり、所得額を実績で把握している以上、売上原価率から売上原価を推計する方法を採る必要はないし、原告が公表外で販売した医薬品には試供品・添付医薬品として無償で入手されたものが含まれている可能性もある。

2  争点2(二四万六〇〇〇円が売上か否か)

(一) 原告の主張

被告が認定した第一事業年度の売上除外額中、城東信用金庫(現在の名称は東京ベイ信用金庫)前原支店青木健二名義普通預金口座への昭和六三年四月二二日付けの二四万六〇〇〇円の入金(以下「本件金員」という。)は、売上ではない。これは、社団法人船橋市医師会(以下「船橋市医師会」という。)が原沢寿三男医師(以下「原沢医師」という。)に対し報酬支払のため振り出した額面合計が同額の小切手二枚(以下「本件小切手」という。)を、原告代表者が原沢医師からの依頼により同医師会に赴いて代理受領し、原沢医師に同額の現金を交付した上で、城東信用金庫にその取立依頼をした結果入金されたものである。

(二) 被告の主要

船橋税務署所属の担当調査官による調査の際に本件金員を公表外売上金とする旨説明した際に原告が何ら異論を述べなかったこと、右入金口座は専ら公表外売上金が入金されていた口座の一つであること、原沢医師の経営する原沢外科は、昭和六二年度期及び昭和六三年度期中において、原告との間で総額約三〇〇〇万円の売買取引を行っており、恒常的に代金債権債務が存在していたと考えられること等の事実に照らし、本件金員は売上金と推認される。

3  争点3(本件各納税告知処分等の方式の違憲違法の有無)

(一) 原告の主張

源泉所得税に係る納税告知処分を受けた所得税法一八三条一項所定の給与等の支払者(以下「給与等支払者」という。)は、当該処分に係る所得税相当額について給与等の受給者に対し求償権を取得する。この求償権の行使を可能ならしめるために、源泉所得税に係る納税告知処分においては、課税庁が認定した給与等の受給者の氏名、支払年月日、支払金額、源泉徴収税額を給与等支払者が知り得るよう、これらの事項を明示する必要があり、そのような方法による通知のみが憲法二九条一項に適合したものといえる。国税通則法三六条二項及びこれを受けて納付すべき税額の記載様式を規定する同法施行規則五条は、右事項の記載を求めておらず、給与等支払者の求償権の行使を不可能ならしめるものであるから、憲法二九条一項に違反する。また、源泉所得税の不徴収は刑事罰の対象となるから、給与等支払者の源泉徴収を困難にする右規定は、憲法三一条にも違反する、したがって、右様式によつてされた本件各納税告知処分等は取消しを免れない。

(二) 被告の主張

国税通則法三六条二項は、同条一項の規定による納税の告知の方式について、「政令で定めるところにより、納付すべき税額、納期限及び納付場所」を納税告知書に記載すべきものとしているだけで、受給者の氏名、支払年月日等個々の源泉所得税の発生原因事実を識別するに足りる事項の記載までは要求していない。本件各納税告知処分等は、右政令である同法施行令四三条の委任に基づく大蔵省令の定めである同法施行規則五条所定の納税告知書の書式(以下「本件様式」という。)に、所定の記載事項を記載してされたもので、適法な処分である。

源泉所得税は、源泉徴収の対象になる給与等の支払があれば、支払と同時に確定する性質のものであり、給与等支払者は、自ら支給した金額や支払の相手方たる受給者を最もよく知り得る立場にあるのであるから、納税告知書に国税通則法・同法施行令・同法施行規則に定める事項以外の詳細な支払内容が記載されていないからといって、被告知者の権利が害されることにはならない。また、納税告知書において個々の源泉所得税ごとに特定した記載を要求することは、大量一括処理という源泉徴収制度の機能を著しく阻害することにないかねないから、国税通則法施行規則が定める記載事項には合理性がある。

4  争点4(本件売上金につき、原告代表者に支給された賞与とする認定の当否)

(一) 原告の主張

本件売上金が振込入金されていた預金口座は原告代表者の支配管理下にあったものではなく、本件売上金が原告代表者に賞与として支給されたということはできない。

(二) 被告の主張

公表外売上金は、<1>千葉銀行松飛台支店青木一郎名義普通預金口座、<2>城東信用金庫前原支店青木健二名義普通預金口座、<3>東京相互銀行南行徳支店伊藤二郎名義普通預金口座、<4>千葉銀行はざま支店青木加代子名義普通預金口座(以下、右に挙げた順に「本件口座一」~「本件口座四」といい、これらを合わせて「本件各口座」という。)に振り込まれる等の方法で回収されているところ、本件売上金から本件各更正処分等における仕入認容に係る仕入代金を控除した金員は、入金の時点で原告から原告代表者に対して賞与として支給されたものである。

第三判断

一  本件各処分のうち主文一項に掲記の部分は、前記第二の一2のとおり、平成四年九月二八日付け裁決によつて既に取り消されているから、当該部分について取消しを求める原告の訴えは、いずれも訴えの利益を欠き、不適法である。

二  争点1について

1  原告は、ブローカー取引で販売した医薬品の仕入れは、帳簿に一切記載されておらず、損金に当たるものであるのに、本件各更正処分等の基礎に算入されていない旨主張する。

2  ところで、法人税更正処分の取消訴訟においては、課税根拠となる所得額はもちろん、所得額を益金の額から損金の額を控除する方法で求める場合には、右益金及び損金の額についても、課税庁において益金の存在及び損金の不存在を主張立証する責任を負うものと解するのが相当である。

ただ、青色申告の承認を受けた納税者は、大蔵省令で定めるところにより帳簿書類を備え付けて、これに個々の取引を記録し、その帳簿書類を保存することが義務づけられ(法人税法一二六条一項、同法施行規則五三条~五九条)、税務署長は、必要があるときは帳簿書類について必要な指示をすることができ(同法(一二六条二項)、右義務の違反に対しては青色申告承認の取消しの制裁がある(同法一二七条)。その反面、青色申告に係る更正処分には推計課税が許されず(同法一三一条)、理由を附記しなければならない(同法一三〇条二項)ものとされており、しかも、この理由は、帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする必要がある(最高裁判所第二小法定昭和三八年五月三一日判決・民集一七巻四号六一七頁参照)ところからすると、法は、青色申告の承認を受けた納税者の記録する帳簿書類が適正正確なものであることを要求するとともに、当該帳簿書類が適正正確なものであることを前提に、納税者に種々の特典(右の更正に関する推計課税の禁止及び理由附記のほか、欠損金の繰越控除(同法五七条)や欠損金の繰戻しによる還付(同法八一条)等の制度の適用がある。)を与えているものと解される。そうすると、青色申告の承認を受けた納税者について簿外の売上が発見された場合、帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料によって捕捉し得た仕入れ等の損金の立証をもって損金についての課税庁側の立証(これ以上に損金は存在しないとの立証)は尽されたものというべく、納税者においてそれ以上になお簿外の仕入れ等が存在すると主張するならば、自ら記録した帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料によって当該損金の存在を立証する必要があるというべきである。

本件においては、原告が本件各事業年度当時青色申告の承諾を受けていた事実には前記第二の一のとおり争いがないから、本件各更正処分等が基礎とした損金額(その存在は争いがない。)を上回る損金の存在については、これを主張する原告が立証すべきである。

3  原告は、本件各事業年度の法人税の課税標準等の計算の基礎に算入されるべき損金の存在を、取引相手や取引額等の具体的内容を明示せずに主張する。

この点、原告代表者の供述においては、本件各口座から現金で引き出された金員はブローカー取引の仕入れに用いたものとされ、証拠(乙五の3~9、一〇の3、一一の3)によっても、本件口座二~四における現金引出しの記録は、その金額や頻度に照らし、個人の日常生活的な消費の範囲を超えるものがあることが認められるから、本件口座二~四から現金で引き出された金員の一部は原告のブローカー取引の仕入れのために用いられたと見得る余地がないとはいえない。

しかし、以下の理由により、前記争いのない額を超えて算入すべきブローカー取引に係る仕入れの存在は極めて疑がわしく、このほかに本件更正処分等の基礎に算入されていない損金の存在を認めるべき証拠はないから、原告の主張は理由がないというべきである。

(一) 後記五2で認定する事実に照らすと、右の本件口座二~四からの出金は、原告代表者の個人的な株式投資や蓄財のために用いられた疑いがある。

(二) 本件各口座から引き出された現金が仮に仕入れのために用いられたとすれば、原告はその具体的使途及び金額を取引の流れに沿って直截かつ容易に主張立証できると考えられるにもかかわらず、仕入先を明らかにしないまま、仕入額のみについて、課税庁に判明した売上額から売上原価率を用いて推計する方法による概算的な主張をする(これも第二事業年度の仕入れについて行われているにすぎない。)以外に、何ら個別・具体的な仕入額の主張立証をしない。この点について、原告代表者は、取引の相手を明らかにすると相手に迷惑がかかる旨供述するが、原告のブローカー取引における仕入先(前記第二の一4)について、その取引相手からの仕入れの具体的内容を一切明らかにしないことを合理的に説明するものではないから、右のような原告の主張や立証方法は採用できない。

(三) 証拠(甲一の1、乙一五、一六、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ダラシンという名称の医薬品(一五〇ミリグラムカプセル一〇〇個で一単位のもの)一〇単位を、昭和六三年一一月一日に福神株式会社から一単位三二〇〇円で購入し、同月四日にマルサン薬品に一単位三五〇〇円で売却したほか、ケフレックスという名称の医薬品(内容量五〇〇グラム)五個を、同年一〇月二二日に株式会社ユタカ薬品から一個一万五〇〇〇円で購入し、同年一一月四日にマルサン薬品に同額で売却しており、これらの売買は、品目、数量及び単位の符号と取引時期の近接性に照らし、対応した仕入れ及び販売と認められる(なお、右ケフレックスの取引は、仕入と販売の単価が同一で利益が出ていないが、これは、マルサン薬品に他の利潤の出る医薬品(右ダラシンはその一例)と抱き合わせで販売されており(その場合でも価格は品目ごとに決定されていた。)、全体として利益が出る取引であるから、この一事をもって一連の取引との認定が妨げられるものではない。)が、そのいずれの取引も、仕入れは請求書(請求明細書)及び納品書(乙一五、一六)の存在する計上済みのものであるのに対し、販売は公表外のものであった。このように、原告が公表外で販売した医薬品の中には、その売上原価が既に計上済みのものが含まれている以上、仮に本件各口座から引き出された現金の一部に仕入代金支払に充てられた部分があるとしても、二重計上とならないことが確認されない限り、その引出額を未算入仕入れとして損金算入することはできない。

(四) 証拠(甲四、乙七の24、八の24、二三、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告の総勘定元帳の「外商仕入」の科目には、本件各事業年度の末日に高額の現金仕入れ(第一事業年度の末日に二一〇〇万円、第二事業年度の末日に一八八三万八〇〇〇円)が計上されているが、右金額は、いわゆるラウンドナンバーであって、卒然として高額な仕入れの計上である上、いずれも摘要欄の仕入先名が空欄であること、各事業年度の末日に計上されていることなどからすると、右仕入れの真実性はいずれも極めて疑わしいと認められる。

この点、第一事業年度末日の二一〇〇万円については、原告の法人税申告の業務を行っている税理士事務所の事務員作成の報告書(甲四)によれば、原告の総勘定元帳の記帳に当たっては、原始証憑から直接電算機に入力して記帳する方法を採っていたものの、記憶媒体の容量上の制約により一部の証憑について電卓で集計した合計額をもって期末の日に記帳したものである旨説明され、このうち五一一万五一〇五円については現在原始資料が存在し、その余の一五八八円四八九五円については現在では資料が紛失しているものとされている。しかし、右報告書中で資料が残存するとされる右五一一五万五一〇五円中、一四八万一八四五円については実際には原告から資料が提出されていないこと、一万八一〇〇円については既に別の仕入勘定に計上済みで重複計上されていること、原告は公表仕入れに係る伝票は散逸しないよう管理しているから、一部に所在不明のものがあり得るものの原則としてすべての伝票が保存されているはずであり(原告代表者)、取引額合計一五〇〇万円余もの取引の伝票が紛失したという報告書記載のような事態は考えにくいこと、右報告書によっても一円単位の端数の額が混在する仕入れの合計額が二一〇〇万円という端数のない数字になる不自然さは到底説明できないことなどの事実に照らし、右報告書の記載は信用できない。むしろ、前述のとおり、原告においては公表仕入れに係る伝票は散逸しないように保存されているはずであることからすると、現実に証憑が存在し、かつ、適正に計上されている三六一万五一六〇円を除いた一七三八万四八四〇円は架空の金額である可能性が強い。

また、第二事業年度末日の一八八三万八〇〇〇円についても架空の金額の可能性を否定できない。

(五) 証拠(乙二、三、六、一三の1、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、医薬品業界では、一般に、販売促進と薬価維持を両立させるため、メーカーから卸売店に対するリベートの交付が広く行われていること、リベートの方法には、添付品、現金、接待行為、景品等があるが、このうち添付品によるリベートには、原価に与える負担が小さく、値引きと異なり表面化することがないという利点があり、よく利用されること、原告も、臨床試験用、製剤見本という名目で、リベートとしての医薬品をメーカーから受け取り、これを販売していたことが認められる。

右のとおり、原告がブローカー取引において販売した医薬品中には、無償で入手されたものが少なからず含まれていたものと認められ、このような場合は売上に対応すべき売上原価はない。

なお、原告は、公表外で現金問屋に販売した医薬品にはリベートととしての添付品は含まれていない旨主張するが、平成元年九月二五日の船橋税務署所属の国税調査官による調査の際発見された現金問屋あての宅配便の伝票について、原告代表者が薬の添付品を売却する際に使用したものである旨の説明をしている事実(乙二、六)に照らし、右主張は採用できない。

(六) 証拠(乙七の1~6、八の1、一八、一九)及び弁論の全趣旨によれば、原告の総勘定元帳に、昭和六三年六月三〇日、原告の原沢外科に対する売上げとして一四万円が計上されているが、第一事業年度及び第二事業年度中のこれ以外の月の原告の原沢外科に対する売上は平均して約一一七万円であること及び原告が原沢医師振り出しの昭和六三年六月三〇日付額面一一四万円の小切手を同年七月二日に千葉銀行松飛台支店青木一郎名義普通預金口座(口座番号二〇七五三八七。これは、本件口座一とは別個のもので、原告の公表売上げの入金に用いていたもの)を使って取り立てていることが認められ、右事実に照らせば、同年六月における原告の原沢外科に対する売上高は一一四万円であったところ、原告は同月の右売上高一一四万円と公表売上額一四万円との差額一〇〇万円を除外し、これを公表売上に計上しなかったものと認められる。この点に関して、原告代表者の供述中には、昭和六三年六月に一四万円が計上された理由について二種類の伝票を使ったからではないかとの説明部分があるが、一方のみが原沢外科に対する売上として計上されることの合理的説明となるものではなく、右供述部分は信用できない。

右の一事を取り上げても、第二事業年度の更正処分が前提としている原告の公表売上中には、圧縮計上されたままのものが存在することが認められるのであるから、公表外仕入れについて売上原価率を用いて推計する方法には信用の基礎を欠くものがあるというべきである。

4  原告は、第二事業年度に関し、マルサン薬品に販売した医薬品の売上額と売上原価率により算出した仕入額である一一〇二万八三六〇円を損金に算入すべき旨主張し、甲一の1~3及び原告代表者の供述中にはマルサン薬品に販売した医薬品の売上額及び売上原価率について右主張に沿う部分もある。

しかし、前記(三)、(四)のとおり、第二事業年度におけるマルサン薬品等との間のブローカー取引における仕入れの中には既に第二事業年度の更正処分の基礎に算入されていると認められるものがあるから、ブローカー取引の仕入額が第二事業年度の更正処分に全く計上されていないことを前提とする右主張は、前提を欠き、失当というほかない。さらに、本件各更正処分等において認容された仕入額があり、原告の主張する仕入額が全く処分の基礎に算入されていないということはできないし、仮にマルサン薬品へ販売した医薬品の仕入れ中に未算入のものがあるとしても、原告が主張する仕入額一一〇二万八三六〇円は、第二事業年度の更正処分の基礎に算入されているものの架空計上の疑いのある前記事業年度末日の仕入額一八八三万八〇〇〇円を上回るものではないから、原告の主張は採用できない。

5  このほか原告は、被告認定の公表外売上原価及び公表外売上高の比率であるブローカー取引の売上原価率は異常に低い値になる旨主張するが、前記3(三)のとおり、公表外の売上医薬品の仕入れの一部は公表帳簿に計上されていることが、認められるから、右主張は直ちには採用できない。のみならず、被告認定の総売上高及び総売上原価に基づいて算出した売上原価率(第一事業年度〇・五九五二、第二事業年度〇・五三四一)は、船橋市内に事業所を有する調剤薬局のみを営む青色申告法人の同時期の売上原価率(〇・四二一五~〇・四七七七)と比較して顕著な差異があるとはいえず、売上原価率が若干高めであるのは売上原価率の高いブローカー取引の収支が全体の売上原価率を押し上げた結果であると理解することができる。

他に本件各更正処分の基礎として算入されていない仕入れの存在を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、争点1に関する原告の主張は理由がない。

三  争点2について

1  原告は、本件金員を原告の売上金と認定してされた更正処分に対し、本件金員は原沢医師に依頼されて小切手を換金したものにすぎない旨主張し、甲三の1及び原告代表者の供述中には右主張に沿う部分もある。

しかし、右部分は、次の事情に照らし、信用することができない。

(一) 原告代表者は、本件小切手を二日間くらいは持っていた旨供述しているのに対し、甲三の1(原沢医師の申述書)では小切手の「両替を依頼し」た日は昭和六三年四月二二日とされている。本件小切手により本件口座に二四万六〇〇〇円が入金されたのは右同日である事実(乙五の3)に照らし、原告代表者の供述と甲三の1は重要な点において食い違いがある。ちなみに、原告は、平成五年七月二八日付準備書面(二)において、原告代表者は、原沢医師から船橋市医師会で本件小切手を代理受領して現金で持参してほしい旨を依頼され、同医師会に赴いて右小切手を代理受領した上、青木一郎個人の同額の金銭を原沢医師に交付し、同小切手を城東信用金庫前原支店に取立依頼して本件金員の入金を受けたものであると主張しているが、前掲甲三の1には、船橋市医師会から受領した小切手を多忙のために原告代表者に両替を依頼した旨の記載があり、この点については原告代表者も同様の供述をしているところ、右のような原告の主張との食い違いについても、原告から何ら合理的説明はない。

(二) 原告代表者の供述態度は、本件小切手に関する事実関係について、原告代理人の問いに対しては明確な供述をする一方で、被告代理人の問いに対しては、曖昧な供述を繰り返している。

また、船橋市医師会は、原沢医師に看護学校講師旅費の名目で支払うべき報酬を小切手によって決済していたところ、原告は、そのうち、本件小切手以外に少なくとも六通(うち四通金額合計四一万一五〇〇円は昭和六三年八月一日交換、現金払のもの、一通は平成元年九月四日~一〇月二〇日の報酬として振り出された金額七万二〇〇〇円のもの、残り一通は同年一〇月二一日~一二月二〇日の報酬として平成二年二月九日ころ振り出された金額九万六〇〇〇円のもの)を受領し、換金している(乙二〇、二一、二二の1・2、原告代表者)。この点に関し、原告代表者は、原沢医師から小切手の換金を依頼された経験について、本件金員の入金以前には何回かあったがその後はないと思う旨一度は供述したものの、反対尋問において前掲乙二〇、二一(東京国税局長の照会に対する船橋市医師会及び株式会社及び株式会社京葉銀行の回答書)を示されると、直ちに供述を翻し、記憶が定かでない旨弁明しているが、それ以上何らの合理的説明もしていない。

(三) さらに、開業医である原沢医師が、本件小切手にあえて裏判(線引小切手の裏面に振出人が振出しに用いたのと同一の印を押捺することにより、実務上線引きの効力を失わせるものとして取り扱われている。)を船橋市医師会で受けて換金し、現金を持参するよう原告代表者に依頼するほどの現金の必要性を生じるという事態は考えにくく、そのような事実を認めるべき証拠もない。原沢医師に緊急の現金化の必要性がなかったとすれば、原告に本件小切手の換金を依頼する必要はなく、本件小切手の交付の目的は換金以外にあったものと推認される。

2  次に証拠(乙二、五の3、六、七の1~6、原告代表者)及び弁論の前趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告代表者は、本件各処分に係る法人税調査担当の国税調査官に対し、本件口座二への小切手入金(本件各事業年度中の右口座への小切手入金は、本件金員のほかは昭和六三年九月一四日付けの四万円の一件のみである。)は売上金である旨の説明をしていた。

(二) 原告は、本件各処分を不服として行った審査請求の審理手続における主張中で、本件金員が公表外売上であることを争わない旨表明していた。

(三) 本件金員が入金された本件口座二は、原告が専ら帳簿外の売上金回収のために使用していた本件各口座の一つである。

(四) 原告の原沢医師に対する医薬品の売上は、第一次事業年度が一三一七万四九六〇円、第二事業年度が一四〇一万二二七〇円で、毎月月末に小切手により決済されており、仮に売上金の一部について小切手の代理受領がされた場合、残額のみについて決済することは極めて容易な作業であった。

(五) 原告は、前記一3(六)記載のとおり、原沢医師に対する売上高を圧縮計上して売り上げ隠しをしていた。

3  右2の事実と前記1で指摘した事情を総合すれば、本件金員は、原沢医師に販売した医薬品の代金として小切手の代理受領の方法で入金されたものであり、原告の第一事業年度に係る売上金であったものと認めることができる。

以上のとおり、争点2に関する原告の主張は理由がない。

四  争点3について

1  源泉徴収の対象となるべき所得の支払がされるときは、支払者は、法令の定めるところに従って所得税を徴収して国に納付する義務を負い、この納税義務は右の所得の支払の時に成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされているから(国税通則法一五条)、源泉徴収による所得税は、申告納税方式による場合の納税者の税額の申告やこれを補正するための税務署長等の処分(更正・決定)、賦課課税方式による場合の税務署長等の処分(賦課決定)なくして、その税額が法令の定めるところに従って当然に、いわば自動的に確定するものということができる(最高裁判所昭和四五年一二月二四日第一小法廷判決・民集二四巻一三号二二四三頁)。そして、このような制度の下では、給与等支払者において税額を法令に基づいて自ら算出することを要するものであることから、その前提として、源泉徴収を要する所得税の算出の過程、すなわち源泉徴収の対象となるべき所得の種類、課税標準等は所得税関係法規において簡明に法定されており、源泉徴収制度の円滑な運営が図られているということができる。

右のような源泉徴収に係る所得税の性質及び制度の前提にかんがみれば、給与等の支給額、支給日、支給の相手方等の事実関係及びこれらを基礎として計算される所得税額は、課税権者から徴収義務者に対して通知するまでもなく、徴収義務者において当然にこれを知悉しているべきものであり、他方、反復継続的かつ大量に行われる給与等の支払のすべてについて支給の相手方・支給日・支給額等を徴税権者において個別に把握し通知することは、煩瑣であるのみならず事実上困難であるし、給与等支払者においてこれらの事項を容易に把握できる以上、その必要性もない。したがって、本件様式に税額算出の基礎となる個別的事実関係の記載を要しないものとされていることには合理性があるものということができる。

2  ただ、給与等の支払の有無・額・相手方等について支払者の認識と徴税権者の認定とが異なったような場合には、本件様式により納税告知処分がされたのみでは、支払者の受給者に対する求償権等の行使(所得税法二二二条)が困難になると考える余地もないではない。

しかし、右のような場合でも、自らの認識と異なる認定に基づいて徴税権者がした納税告知処分に不服のある給与等支払者は、当該処分に対する不服申立ての手続において徴税権者の認定した処分の根拠事実(支払者の求償権の行使に必要な事実関係はこれに含まれる)を知り、これに反論する等の機会を与えられているものであるから(納税告知処分について異議申立てをした場合の意見陳述及び異議決定書における理由附記とその送付・国税通則法八四条、審査請求手続における原処分庁の答弁書提出をその送付等・同法九三~九六条)、給与等支払者に原告主張のような不利益が実際に生じる余地はないものといわなければならない。本件各納税告知処分等についても、処分の根拠とされた支給額・支払日・支給の相手方等求償権の行使に必要な事実に関する被告の認定は、異議申立て及び審査請求の過程において十分に明らかにされていると認められる(乙一、二)。

3  以上のとおり、本件様式によってされた本件各納税告知処分等に原告主張の違憲違法の瑕疵はなく、原告の主張は理由がない。

五  争点4について

1  証拠(乙七の1~28、八の1~32、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件売上金に関して、次の事実が認められる。

(一) 原告の経理は、一部を原告の妻が行うほか、原告代表者がすべてを行っており、特にブローカー取引については、原告代表者が仕入れから販売、在庫管理、経理の一切を取り仕切っていた。

(二) 本件売上金は、原告の帳簿には記載されず、これに代わる裏帳簿やメモ等の存否も不明であり、原告の経理上は全額が行方不明となっている。

(三) 本件売上金は、有限会社サンファーマからの薬品等の仕入代金として一部が用いられたほかは、原告のために使用された形跡がない。

(四) 本件各口座は原告のブローカー取引の売上げの入金に用いられていたものであり、本件売上金の大半はこれらの口座に入金されていた。

2  さらに、本件口座一について、次の事実が認められる。

(一) 本件口座について(乙六、九の1~8、原告代表者)

(1) 本件口座一の名義人は青木一郎個人であった。

(2) 本件口座一の預金通帳は、原告の事務所ではなく、原告代表者の自宅に保管されていた。

(3) 本件口座一から、青木一郎又はその家族のための支出として、学費(二口)、生命保険(昭和六二年九月までは二口、翌月以降は四口)、国民年金掛金、国民健康保険税(昭和六二年八月以降)、NHK放送受信料、ガス代が継続的に引き落とされていた。

(二) 本件口座二について(乙五の1~9、六、二四の1~7、二五の1~15、二六の1・2、二七の1~3、二八の1~5、三〇)

(1) 本件口座二の名義人は原告代表者の長男である青木健二となっているが、同人は同口座が開設された昭和六三年三月当時満七歳であり、同口座の入出金内容は、その摘要明細、入出金額及び口座の利用頻度に照らして、同人のものとは到底認められない。

(2) 本件口座二の預金通帳は、原告の事務所ではなく、原告代表者の自宅に保管されていた。

(3) 本件口座二から、昭和六三年一〇月五日に東京相互銀行南行徳支店青木加代子名義の普通預金口座に八〇万円が送金され、この金員は青木一郎個人が購入したマンションの代金三五〇〇万円の支払の一部に充てられている。その一連の金員の移動は原告代表者自身によって行われたことは、普通預金払戻請求書等の関係書類(乙二四の4・5・7、二五の9・10・11)に記載された氏名の筆跡と原告代表者尋問の際の宣誓書の署名の筆跡との対照により歴然としている。

(4) 本件口座二から平成元年二月一四日に引き出された三〇万円及び同年三月二八日に引き出された一〇〇万円のうち現金で払い戻された三三万三五四〇を除く六六万六四六〇円は、いずれも国際証券株式会社の青木一郎個人名義の取引口座に振り込まれ、同人が購入した明治製菓株式会社の株式一〇〇〇株の取得代金等の支払に充てられており、これらの金員の移動も原告代表者自身によって行われたことは、振込依頼書等(乙二七の1~3及び株式の取引申込書(乙二八の1)に記載の氏名の筆跡(この点は前記(3)と同じ。)によって明らかである。

(三) 本件口座三について(乙六、一一の1~3、三一、三五の1~6、三六の1~5、原告代表者)

(1) 本件口座三の名義には伊藤二郎なる架空の氏名と住所が用いられており、原告及び代表者とは無関係のもののように擬装されていた。

(2) 本件口座三の預金通帳は、原告事務所ではなく、原告代表者の自宅に保管されていた。

(3) 本件口座三の平成元年一一月二二日の解約により現金出金された前残高一〇二万九七四六円のうち七一万五〇〇〇円は、青木一郎個人が同月二四日付けで開設した山一證券株式会社船橋北口支店(以下「山一證券」という。)における取引口座に対し、同人が買い付けた(買付約定日は同月二二日)神戸製鋼所の株式一〇〇〇株の取得代金の支払に充てられている。

(四) 本件口座四について(乙一〇の1~3、三四の1~4、三五の1~6、原告代表者及び弁論の全趣旨)

(1) 本件口座四の預金通帳は、原告の事務所ではなく、原告代表者の自宅に保管されていた。

(2) 本件口座四の名義人青木加代子は原告代表者の妻であり、同人は原告の店頭販売と経理の一部を担当していたものであるが、同口座の入出金額及びその利用頻度等の取引内容は同人のものとしては不自然なところがある。

(3) 本件口座四には、前記(三)(3)の山一證券における青木一郎名義の取引口座及び同人が同證券において開設した青木加代子名義の取引口座(開設者が青木一郎であることは、乙三五の1・2の氏名及び住所の筆跡と前掲乙二四の4・5・7、二五の9~11、二七の1~3、二八の1の氏名等及び前記宣誓書の署名の筆跡との同一性によって認められる。)の売却代金・利金・分配等を振り込むための口座に指定され、実際に右取引口座から株式の売却代金が振込入金されている。

3  右2の事実を総合すると、本件各口座は、いずれも原告代表者である青木一郎の個人的口座であったものと認められる。原告代表者は本件口座四は青木加代子個人のものである旨供述しているが、前記2(四)の各事実に照らし、信用できない。また、本件口座二~四からは多額の金銭が頻繁に引き出された事実が認められ、その中には原告のブローカー取引の仕入に充てられたものがあることを認める余地もないではないが、仮に一部にそのようなものがあったとしても、それによって本件各口座の性質に関する右認定が妨げられるものではない。

これに前記1の事実を併せて考えると、原告代表者は、自己が独占的に経営を管理支配する原告において、自らが一切の事務を単独で掌握経営していたブローカー取引の売上げの大部分を自分個人の口座に直接入金させ、その売上げが原告の資産として計上されることは当初から予定されておらず、以後原告のために用いられることも原則としてなかったものと認められるから、本件各口座のいずれにも入金されていない売上げを含む本件売上金は、その受領若しくは口座入金と同時に原告から原告代表者個人の所得に移されていたということができ、これは原告からの原告代表者に対する賞与の支給と認めるのが相当である。なお、本件売上げの一部(前記のとおり争いのない第二の一3の各仕入認容額)は本件口座二へ入金後にブローカー取引の仕入のために出金されているが、これは、原告代表者に対する賞与支給額のうち右出金相当額の支給が取り消され、これを原告に返還する代わりに原告の債務の弁済に充てる処理をしたにすぎないと解すべきである。

4  以上のとおり、原告代表者には、本件売上げの各入金時において同額の金員が賞与として支給されたものというべきであるから、その入金額から仕入認容額を差し引いた額(争いがない。)と同額をもってした本件各納税告知処分等は適法であり、原告の主張は理由がない。

六  以上の次第であるから、本件各処分を違法とする原告の主張はいずれも理由がなく、他に本件各処分を違法とすべき事由はない。したがって、原告の請求のうち主文一項に掲記の部分を除くその余の請求は、いずれも理由がない。

七  よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成九年九月三日)

(裁判長裁判官 石川善則 裁判官 桐ヶ谷敬三 裁判官 宮崎謙)

別表一 第一事業年度分の法人税更正処分及び重加算税賦課処分関係

<省略>

別表二 第二事業年度分の法人税更正処分及び重加算税賦課処分関係

<省略>

別表三

1 昭和62年8月分~同年12月分の納税告知に係る源泉所得税

<省略>

2 昭和63年1月分~同年6月分の納税告知に係る源泉所得税

<省略>

3 昭和63年7月分~同年12月分の納税告知に係る源泉所得税

<省略>

4 平成元年1月分~同年6月分の納税告知に係る源泉所得税

<省略>

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